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教授のひとりごとBlog

チャップリンの理想

2016年1月1日

新しい一年の幕が開けた。

このページを開けてくれた読者の一人一人にとって、本年が、心に長く抱いてきた夢の実現に一歩近づくことができるような実り多い一年となることを心より祈念する。

昨年は、このブログを特にことわりもなく「勝手に断筆」したのだが、それには自分なりの理由があった。作家や評論家の「断筆」には、大きく二つの理由があり、ひとつは社会や政治に対する抗議の場合、もうひとつは自らの信条の変節の場合である。しかし、そもそもペンで食扶持を稼いでいることを世間が認めているような著名人でなければ世の中に対して断筆を宣言することの意義があるはずもない。自分の場合は、ただ世の中に生起するあまりの理不尽を陳腐な言葉で表現することの稚拙と限界を悟ったための「沈黙」の期間に過ぎなかったので、「書けなくて休みます」と不特定多数の読者に断わることには抵抗があった。そしてこの間、何ら考えも行動も変わらぬまま、いたずらに時間が過ぎたのであるが、このたび、ある出来事をきっかけにふと気が変わって、やはり文章でもありのままの生き恥をさらすことを決意したのである。

さて、昨年、自分にとってもっとも強く印象に残った出来事は、はじめて沖縄南部の戦跡を訪問したことであった。名護市で開催された学会の帰り道に、鹿児島の病院で働く年下の友人に案内してもらったのだが、まさに言葉で伝えることの限界を徹底的に思い知らされる体験であった。11月末に水木しげるさんが亡くなったが、妖怪漫画以外の水木さんの傑作のひとつに「コミック昭和史」がある。もし万が一ご存知でない読者がいれば、ぜひこの壮絶な自伝に目を通していただければと思う。

チャーリー・チャップリンが「独裁者」のラストシーンで行った兵士たちへの演説はあまりにも良く知られているが、それに耳を傾ける人に常に現実と理想の矛盾を深く考えさせるフレーズに満ちている。年頭にふさわしい言葉であるかどうかは読者の判断に委ねるが、自分自身は以下の一節をもう一度血肉化しなければならない〜それは全人生をかけても困難をきわめるが〜と考えている。

Soldiers, don’t give yourselves to brutes ― men who despise you, enslave you, who regiment your lives, tell you what to do, what to think and what to feel, who drill you, diet you, treat you like cattle, use you as cannon fodder.

(兵士たちよ、獣たちに身を任せてはいけない。君たちを見下し、奴隷とし、人生を画一的に統制する人々は、君たちが何を行い、何を考え、何を感じるかを指示し、君たちを調教して食べることを制限する人々は、君たちを家畜のように扱い、使い捨ての道具にするのだ。)

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