教授のひとりごとBlog
理不尽な死
2014年8月5日
いろいろな事情により、しばらく「ひとりごと」を休んでいたのだが、本日の朝に飛び込んで来た理研CDB・笹井芳樹博士の訃報は、あまりにも衝撃的であった。どのような事情があったにせよ、この死の意味は非常に重く、拙い言葉であっても何かを書き残さなければならないと感じたのである。何が笹井氏を死に追いやったのか、その真相を知ることは困難であるが、今回のSTAP細胞にかかわる一連の報道に接して筆者が感じていたことは、「科学における不公正」という問題を「スケープゴート探し」にすり替えてはいけないということである。
「STAP細胞事件」は「フィクションとしての生命科学」の象徴であり、マス・メディアにとっても現代の競争的な科学研究のあり方を断罪するための絶好の材料であったに違いない。しかし、もし、そのような漠然とした集団心理が特定の個人への攻撃的感情を容易に生み出し、傑出した科学者の生命をさえ奪うものであるとすれば、われわれの社会はあまりにも劣化していると言わざるを得ない。
「傲慢は人間に対する憎しみによって生まれる。彼らは自分がその悪しき力をふるうのが好きだという事実を自覚していない。しかし、他人を踏みつぶす力、侮辱する能力をふるうことだけが彼らに自分の存在を自覚させる。」(ポール・ニザン「アデン・アラビア」篠田浩一郎訳より)
お知らせ一覧へ