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研究紹介Research activities

はじめに

医学研究にはさまざまな形のものがありますが、その究極的な目的は、医学における未解決の問題を考察するための新しい知の枠組みを創出し、より良い医療の実践に貢献することと考えています。教育基本法の第七条には、「大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探求して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するもの」であるとされており、そのために、「自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない」と記されています。私たちの教室は、広島大学卓越大学院プログラム(*)のメディカルコース協力講座として、基礎研究分野との緊密な連携のもとに、真に医学的重要度の高い研究課題を選定し、皆さんの創造性を最大限に発揮できる環境を提供することを目標としています。血液学以外のバックグラウンドを持たれている方の入学も歓迎いたしますので、お気軽にご相談下さい。
広島大学ゲノム編集先端人材育成プログラム

研究テーマ一覧

1. 次世代シーケンサーを用いた超高解像度免疫モニタリング法の開発

ヒトの獲得免疫系を構成するT細胞およびB細胞のレパトワはいずれも1000億以上の多様性を有しているとされており、それらの生体内動態の正確なモニタリングが可能となれば、感染症・悪性腫瘍・自己免疫疾患・免疫不全症・移植医療などきわめて広範囲の医学領域に多くの新知見をもたらすことが期待されます。しかし、従来、そのようなニーズを満たすことのできる検査技術は存在していませんでした。そこで、私たちの研究室では、近年飛躍的に進歩した大規模高速DNAシーケンシング技術を用いることにより、生体内に存在するひとつひとつのT細胞・B細胞クローンの網羅的かつ半定量的な検出を可能とする次世代の免疫レパトワ解析技術の開発と臨床応用を目指しています。

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これまでにサイトメガロウイルス(CMV)pp65をモデル抗原として、ヒトの抗原特異的CD8+T細胞の階層性を解明する研究を進めており、次世代シーケンサーによる網羅的なT細胞受容体(TCR)遺伝子配列の取得技術とhTEC10と呼ばれる単一細胞レベルでのT細胞受容体(TCR)の構造の決定技術を用いて、CMLに対する細胞傷害性T細胞(CTL)はオリゴクローナルな細胞集団であり、特にそれらのうち機能性の高いドミナントなCTLとそれを補うサブドミナントな数個のクローンで構成されていることを明らかにしました(Miyama, 2015 ASH meeting, abstract achivement award)。また、さらに興味深いことにこれらのドミナントなCTLのT細胞受容体(TCR)は、複数の他者のTCRレパトワの中にも存在しており(shared TCR)、抗原への結合能が高いという特徴を有していることも判明しています。また、これまでに私たちが行ってきた研究を通じて、このようなshared TCRはT細胞の記憶の保持、交差反応性など抗原特異的なT細胞応答の基盤となる役割を担っていることが徐々に明らかになりつつあります。現在は、造血器疾患や造血細胞移植後の患者さんにご協力をいただき、これらの技術を通じて、さまざまな免疫学的イベントを予知するための新しいバイオインフォマティクス技術の開発に取り組んでいます。

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2. 間葉系幹細胞の薬理学的賦活化作用を利用した新規造血細胞移植法の開発

間葉系幹細胞(mesenchymal stem cells, MSC)は自己複製能と骨細胞・脂肪細胞・軟骨細胞などへの多分化能を有する体性幹細胞であり、骨髄・臍帯血・歯胚・脂肪組織などから比較的容易に分離することが可能であるため、多様な組織の修復と再生を可能とする細胞ソースとして現在その臨床応用が精力的に進められています。また、体外で培養されたヒトMSCはT細胞・NK細胞・B細胞・樹状細胞など広範な免疫担当細胞の機能をHLA非依存的に抑制することが報告されており、造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)の治療・自己免疫疾患の治療・臓器移植片の生着率向上などを目的としてMSCの移植を行う前臨床研究や実際の臨床試験がすでに国内外において開始されています。

私たちは、このようなMSCの有する造血支持能、免疫調節能、組織修復能に関与する分子機序を明らかにするとともに、これらの機能を賦活化する生理活性物質を同定し、造血幹細胞移植の治療成績の向上や、緊急被ばく時の組織再生治療法の開発に応用していくことを目指しています。

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3. ゼブラフィッシュを用いたリアルタイムイメージングが可能な造血細胞移植モデルの開発

近年における免疫バイオインフォマティクス技術の革新的進歩により、免疫系構成細胞の網羅的解析が可能となり、個体全体を対象にそのような解析を行うことにより、免疫系の発生や恒常性維持の解明に向けて多くの新知見がもたらされることが期待されています。しかし、マウスなどの小型哺乳動物を用いてそのような解析を行うにはまだ多くの困難が存在しているのが実情です。そこで、私たちの研究室では、ゼブラフィッシュの優れたモデル生物としての特性を利用し、主要組織適合性複合体相同遺伝子の組み替え型個体や免疫不全個体の作成によって安定した造血細胞移植のシステムを確立するとともに、それらを利用して個体全体に存在するT細胞/B細胞レパトワの網羅的かつ鳥瞰的な解析技術を開発するための研究を行っています。

ゼブラフィッシュは、食細胞・抗原提示細胞・T細胞・B細胞など哺乳類とほぼ同様の免疫担当細胞群を有しており、これらのレパトリを全個体レベルで解析することが可能です。また、遺伝子改変が容易、多産で発生までの期間が短い、胚子期から幼生期までは透明性が維持されるためin vivoイメージングも可能、など実験生物としてきわめて優れた特性を有しています。現在はそのような特性を最大限に利用し、ゼブラフィッシュの一個体すべてに存在するT細胞・B細胞を網羅的かつ鳥瞰的に同定できる技術を開発するとともに、造血細胞移植に適したトランスジェニック個体を作成することや、ゼブラフィッシュを用いて造血細胞移植後の同種T細胞の動態をリアルタイムイメージングによって解析するシステムを確立し、新規免疫調節性薬剤のスクリーニングや前臨床試験に利用可能とすることを目指す研究に取り組んでいます。

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4. 難治性血液疾患に対する新規診断法・治療法の開発

上記以外にさまざまな造血器腫瘍、造血不全症、止血凝固異常症に対する新しい診断法と治療法の開発に取り組んでおり、多数の国際臨床試験に参加しています。

新規治療法開発試験の結果